・心房細動のゲノム研究と精密医療実現のための研究
心房細動の発症機序や病態は、高血圧や心疾患などの環境要因に加えて、遺伝的要因も関与していることが報告されています。近年の技術進歩により、ゲノム全体での一塩基多型(Single Nucleotide Polymorphism: SNP)の遺伝型が決定され、各SNPの頻度と疾患や形質との関連を統計的に調べたゲノムワイド関連解析(Genome-wide Association Study: GWAS)が盛んに行われるようになってきました。心房細動のGWASにおいても、大規模なゲノムデータ(サンプル数の増加や多人種のデータ)の構築に伴い、多くの疾患感受性領域が報告されていますが、それらの機能が分かっていないものも多く、疾患の遺伝構造を十分には解明できていません。
そこで、理化学研究所が所有するBioBank Japanの約20万人のゲノムデータにインピュテーションの手法を利用することで、十分なサンプル数でかつcommon variantからrare variantまで含んだ高解像度のゲノムデータを作成します。さらに疾患への影響が大きいと推定されるvery rare variantに関しては、機械学習のアルゴリズムを応用することでその変異を特定し、幅広い遺伝子変異で網羅的にGWASを行い、心房細動のより詳細な病態メカニズムを明らかにしていきます。
さらにゲノム情報を臨床医療へ応用させるために、得られたGWASの結果と臨床データを組み合わせることで新しいポリジェニックスコアを作成します。ポリジェニックスコアは疾患の発症予測に有用であり、さらに脳梗塞といったアウトカムの予測に関しても有意な結果が示されています。また共同研究機関と情報共有を行い、多人種のデータを加えることで、最適なポリジェニックスコアの作成とその性能評価を行なっていきます。最も性能の優れたポリジェニックスコアを実際のコホートデータで検証することで、疾患のリスク層別化から個人の病態に合わせた適切な治療法の選択といった次世代型の精密化医療の実現を行っていきます。
